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続・THE GROOVERS
2019-07-06
「赤羽駅の改札を出たところに【みどりの窓口】があるから、そこらへんで待ち合わせよう」
友人からの短いメールにはそう書かれていた。
(改札はひとつだけなのだろうか。あの大きな駅で・・。)
一抹の不安を返信メッセージに含ませるか悩みつつ、野暮は抜きで【了解】と送った。
一週間前の休日、息子と近所の自然公園で遊んでいた時、その友人から電話がかかってきた。
「カラオケ一緒に行ってくれないか?」
モーレツな違和感があった。
昔さんざん一緒に呑み歩いたけれど、歌が苦手だった彼はいつも頑なにカラオケを拒否していたからだった。
「一緒に行ってくれないか?」と耳に入った時、
(何があった?)(一体どんな事情でそうなる?)と私は内心困惑していた。
「いいよ。」と
事情を聴く前に受け入れる気概を見せながらも私は、
「けど、どうした?」と、
そのいきさつを聞かずにはいられなかった。
聞けば、どうやら彼は郷里の友人との飲み会で、【亡くなってしまった彼らの友人の追悼ライブ】で生バンドをバックに【セックスピストルズ】の【Seventeen】を「歌う!」と豪語したらしい。
静かなたたずまいの中に熱い心が宿る彼らしいエピソードであった。
私は翌日にはピストルズの唯一のスタジオアルバム【Never Mind The Bollocks】を購入し、予襲復讐に勤しんだ。
当日。彼とは約1年ぶりの再会となった。
前回は実に20年ぶりというドラマティックな再会であったが、それに比べると実にリラックスした待ち合わせだった。(緊張の前回の再会についてはこちらをどうぞ。→THE GROOVERS
前回は「中野駅」での待ち合わせであったが、今回は彼の気づかいにより私の住まいにより近い「赤羽駅」での再会だ。
さて、ここで話の最初の場面に戻るが、
「赤羽の改札は果たして本当に1つきりなのだろうか。」
埼京線を降りて赤羽駅の連絡通路を歩く。
上方の案内板を見やる。
「↑北改札」
(ほらぁぁ!!あるじゃぁん!ゼッタイ!南改札ぅう!)
しかしここで早まってはいけない。
私は北改札に向かい、自動改札機は通らずに端っこに在る【有人の改札】へ向かった。
「すみません。こちらの駅の改札はここだけですか?」
「いいえ、もうひとつ南改札があります。」
(ですよね~。でも良かった、もうひとつだけで!)
「では、みどりの窓口が両方にあったりします?」
「いいえ、みどりの窓口はこちらだけです」
(ですよね~。ああ、良かった、良かった。)
「ありがとうございました。」
きちんと礼を言い、あらためて自動改札をくぐり抜けた。
前回の再会は友人が姿を現してもすぐに彼だと分かるかどうか不安であったが、今回は待ち合わせ場所が不安だった。
でもこういう緊張感、決して悪くはない。
かなり大きな【みどりの窓口】のメインと思われる入口の端で私は彼を待った。
ほどなく彼が現れて、たばこが吸いたいと言うので東口駅前の喫煙所へ向かった。
凄い人数が喫煙していた。
一瞬、駅前全体がたばこの煙だらけになってしまうのではないかと思うほどだった。
「分煙」から本格的な「禁煙」へと世の風潮が移り変わってゆく時代の狭間をまざまざと目撃したような気分だった。
一人一人の単なる喫煙愛好者達が一つの所へ押しやられて、モンスター化し、退治と言う大義名分を持って排除される直前の最期の姿を目撃したように思えたのだった。
いきなりカラオケに行くのは気が引けたので、「一杯ひっかけよう!」ということで、呑み屋の看板がたくさん出ているビルの入り口に立つ。
呼び込みのお兄さんが「いかがっすか?」という感じで誘ってくる。
お魚系の居酒屋らしい。
焼き鳥の気分だった私は別の看板を見ていたが、そこへお魚系居酒屋の魅力的な文字が目に飛び込んでくる。
「生ビール199円」
焼き鳥屋の生ビールは299円だが、つまみは圧倒的に安いらしい。
迷っている私に、「どっちでもいいよ」と友人は言った。
「こういう必死な店選びが懐かしい」と私は楽しんでいたが、友人は苦笑いだった。
結局、焼き鳥屋に入った。
焼き鳥屋では前回の再会で彼からもらった「THE GROOVERS」のベストアルバムに関してあそこのギターが何気なくてカッコいいとか、あの曲の詩が文学的で才能が素晴らしいだとか、細部にわたる自分の思い入れなどをお互い話した後、今回のカラオケに至る顛末等を詳しく聞いた。
さていよいよカラオケだ。
40代半ばと50代半ばの男二人。
狭く、暗い個室だ。
躊躇したら終わりだと思い、入室するなり私はリモコンで曲を転送した。
言わずと知れたセックスピストルズで一番有名な曲「アナーキー・イン・ザ・ U.K.」
ほとんど歌詞を知らないし、画面に出てくる英語も読めないし、ひどいものだった。
しかし、「これでいいのだ」という雰囲気にはなった気配があった。
次は早速、例の「セブンティーン」を彼が歌うのかと思いきや、その歌は断念したと彼が言う。
「代わりにこの曲を・・」とポケットから取り出したスマホで音源を再生し出す彼。
「シャム69なんだけどさあ・・」とまたしてもパンクバンドの名を口にする彼。
「ぼーすたるぶれいくあうと、だね」とその曲しか知らない私が言う。
「いや、違うんだ」とライブ映像が流れだす。
「Ulster-アルスター」という曲らしい。
Ulsterとは、アイルランド北東部に位置する地方の名前らしい。
なるほど、と私もyoutubeにて検索、その曲のスタジオ版を聞いていると、「だめ、だめ、こっちのライブ版でないと!」と彼が言う。
このライブ版のようにシャウトしたいらしい。
そう。歌うのではなく、シャウトしたい。この「Ulster-アルスター」という曲の「あ゛ーるすたー!」という唱和部分だけモノにしたいということらしい。
これまでつかみどころのなかった今回のカラオケ計画の目的に光明が差した。
もちろん、このようなマイナーな曲がカラオケに入っているはずもない。
しばらくの間、二人で掛け合いした。渾身のガ鳴り声だ。
「あ゛るすたぼーい!」
いや、もっと!
「あ゛るすたぼーい!!」
まだまだ!
「あ゛るすたぼーい!」
全身全霊で!!
「あ゛るすたぼーい!!!」
なんということでしょう。40代半ばと50代半ばの掛け合いです。
「あ゛ーるすたー!!」
「あ゛ーるすたー!!!」
とても続かないので、また少し二人で話をする。
すると突然、
「あ゛ーるすたー!!!」
どうしても今日中にこのシャウトをモノにしたい彼が突然叫ぶ。
私も負けじと叫ぶ!
「あ゛ーるすたー!!」
「あ゛ーるすたー!!!」
赤羽の夜はふけてゆく・・。
【Sham 69 - Ulster】 → ライブバージョン
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ページ作成日 2019-07-06